倒立振子のようなシステムを制御する場合には,異なる複数の制御変数に対して制御目標を達成するまでの時間や制御誤差を最小化する規則を獲得する必要がある。この場合,一般にある制御変数に関する制御を改善すると別の制御変数に関する制御が悪化する傾向にある。
多目的最適化手法は,このような状況に対応するための手法であり,相競合する評価尺度を持つ複数の目的関数を同時に最小化する解を求めることを目的とする。しかし,目的関数の値域はベクトルとなり,半順序関係しか持たない半順序集合を対象とすることになるため,全ての目的関数が最小となる完全最適解が必ずしも存在するとは限らない。したがって,目的関数間におけるトレードオフを考慮する必要があり,ある目的関数の値を改善するためには少なくとも他の1つの目的関数の値を改悪しなければならないという解(パレート最適解)が重要視されている。パレート最適解集合を直接求める手法としては,各目的関数について独立に選択を行う方法,解の優越関係に基づいて選択を行う方法など遺伝的アルゴリズムを利用した手法が提案されている。しかし,遺伝的アルゴリズムは通常離散空間を探索するため,実数空間で定義された問題を解く場合には,必ずしも十分な精度が得られない可能性があるため,実数空間上で直接パレート最適解集合を求める手法を考案する必要がある。
そこで,非線形最適化手法である Simplex 法に着目し,遺伝的アルゴリズムと同様の多点探索,すなわち,解の集合による探索という特徴を利用して,パレート最適解を直接的に求める方法を提案したいと考えている。Simplex 法は,単一目的最適化問題を解くために,最適解探索の各段階において,最良解,最悪解などを定め,それを基準に鏡映,拡張,収縮などの操作を行い,最悪解を順次改善することにより最適解を求める方法である。多目的最適化問題では,半順序集合を対象とするため,最良解,最悪解などを定めることができるとは限らない。そこで,最良解に対応する「より良いもののない解の集合」,最悪解に対応する「より悪いもののない解の集合」などを定め,後者の集合の要素を順次改善して行くことによってパレート最適解集合を求める予定である。
このようにして求めたパレート最適集合から,ある制御変数に特化した解ではなく,すべての制御変数についてある程度満足できる解を選択することにより,多目的制御規則の学習を実現する。
ある言語系から他の言語系へ変換するための規則が必要な状況は多数存在する。例えば,機械翻訳において,ある自然言語を別の自然言語へ翻訳したり,データベース検索において自然言語をデータベースアクセス言語へ変換したり,数式をあるプログラミング言語へ変換する場合などである。このような場合に,すべての変換規則を記述するのではなく,変換例から自動的に変換規則を生成したり修正したりできれば,記述のための労力がかなり軽減される。
ここでは,各言語系における解析規則が与えられている場合に,解析結果間の変換対を一般化し,一般化された変換パターンを変換規則として学習することを試みる。以下に,数式とその変換結果であるアセンブリ・プログラムの対を例として与えることにより変換規則を学習するという例を示す。
入力と出力の数値データの対を与え,その間の関係を推定するというタイプの教師付き学習に関する研究は古くから行われており,例えば,画像を入力とし認識結果を出力とするパターン認識や状態量を入力とし操作量を出力とする制御知識の獲得など様々な分野で利用されている。このような教師付き学習で利用されている学習アルゴリズムとしては,ニューラルネットワーク,特に誤差逆伝播学習(BP)法が広く知られているが,近年ファジィ推論において BP 法的な学習アルゴリズムを取り入れたニューロ・ファジィに関する研究も盛んに行われている。
ニューラルネットワークとニューロ・ファジィにはそれぞれ異なった特徴がある。ニューロ・ファジィの場合には,学習の結果ファジィ推論規則が得られるため,入出力関係を理解するという点ではニューラルネットワークより若干優れている。しかし反面,ニューロ・ファジィでは,通常入力の次元ごとにメンバシップ関数を準備する必要があるため,入力の次元が大きくなるとルール数が爆発的に増えてしまうという問題がある。例えば,n 次元の入力において各次元に対して s 個のメンバシップ関数を準備すると,ルール数が sn 必要になってしまう。これに対して,ニューラルネットワークではルールに相当するユニットの数を入力の次元と無関係に任意に決定することができる。
ここでは,比較的入出力関係を理解しやすいファジィ推論規則の学習アルゴリズムを提案したいと考えている。ファジィ推論規則としては,中心点からの距離に対してメンバシップ関数を定義した前件部を持ち,後件部を実数値とする簡略化ファジィ推論規則を用いる。このような距離に基づく簡略化ファジィ推論では,前件部中の中心点が入力データと対応しているため,代表的な入出力データからほぼ直接的に推論規則の初期パラメータを設定するというデータ指向型の学習が可能となる。また,距離に対してメンバシップ関数を定義するためルール数が入力の次元に依存することはなく,ニューラルネットワークと同様にルール数を任意に設定することが可能であると期待される。
変換規則の学習
数式 → 解析結果
1+2+3 exp(+,exp(+,1,2),3)
アセンブラ → 解析結果
LOAD #1 exp(exp(load(num(1)),add(num(2))),
ADD #2 add(num(3)))
ADD #3
変換対
exp(+,exp(+,1,2),3) → exp(exp(load(num(1)),add(num(2))), add(num(3)))
一般化
exp(+,exp(+,x,y),z) → exp(exp(load(num(x)),add(num(y))), add(num(z)))
ファジィ推論によるデータの近似